8月11日

余裕を持って出ようと思っていたのに結局バタバタと出発してしまうのは最早伝統芸のように昔から変わりがなく成長しない点である。

2018年8月11日午後12時前、私のツアーはそういった反省から、初日開幕の6時間半前に始まった。


ソロツアーの告知は、色々なことを総合して考えた末僅かな期待を持って察していた中発せられ、恐らく全く予期していなかった方達が受けたような衝撃は無かったように思う。だからだろうか、当日になっても、新幹線に乗っても、乗り換えをして福井県入りをした後も、どこか冷静な自分がいた。

それどころか、今自分が福井に、彼のライブ初日のために居ることをどこか他人事のように思っていた。

今回初遠征にも関わらず最初から最後までほぼ共に回る友人と他愛も無い話をしながら、お互いどこか冷静に(今思うと冷静であろうとしていたのかもしれないが)、静かに、だが確実に、彼の最初で最後のソロツアー初日が刻一刻と迫って居ることを感じていた。そして同時に始まれば、終わりが否が応でも来るということもわかっていた。


鯖江で降りて行くお嬢さんたちを見送り福井で降りる。ホテルに荷物を預け、可能な限り身軽にライブに参戦したい私はボディバッグに財布とチケット、携帯、むき出しにして嵩を減らしたコスメ類を詰め込み、過去に何度か持った物とは形状の異なるペンラを差し込み、マフラータオルを持って鯖江に向かった。

余談だが、福井、そして鯖江ICカードによる自動改札に対応していない。米原経由でEXIC乗り換えをした私に告げられたICカード入場記録の取り消しと現金精算に愕然としつつ、あとひと月IC対応が早ければ、などと思ったりした。

そして電車のドアはボタン開閉式だ。

都会から出たことのない友人は存在を知ることすら初めてだったようだが、かく言う自分も出張で地方に行くことがなければ知らなかっただろう。

逸話休題


鯖江駅からサンドーム福井まで西日の差す中信号のない道を歩く。

途中何度か、黒のワゴン車が運転席の窓を開け、彼らの曲を再生しながら走行している姿に出くわした。ベルファイアだったかは記憶が定かではない。

近づくにつれ見えたサンドーム福井は、これまで足を運んだどのアリーナよりも異質に見えた。

規則的に並んだ鱗のような隆起に覆われ、頂点にはガラスかアクリルか、陽を受け輝くピラミッドがあった。ここが彼の一人旅の始まりの地なのだと思うと、とても神聖な場所のように見えた。

入場列に並び中に入る。一気に胃が重たくなった。その時ようやく、緊張していることを自覚したように今になって思う。

思えば開演を待つ間、至る所で場内を撮影している人達が目に付いたのは落ち着かないままキョロキョロとしてしまったからだろう。スタッフの皆さんも何度も声を上げていたが、場内の撮影は禁止である。個人で楽しむ云々の前に、手荷物検査で「カメラお持ちではないですか?」と尋ねられ「持ってないです」と答えたのであれば、スマホカメラは起動すべきではない。それは歴とした撮影機材である。


ペンラを確認し、ステージに目をやる。

突端に円形のステージを誂えた花道の上には、同じく円形の照明が組み上げられていた。まるで天使の輪ではないか、何の疑問も持たずそう思った。

青く照らされたステージは純白だ。つまり照明で何色にでも染まる。照明が落ちれば暗く、そしてLightが強まるとより一層その白が際立つことが予想された。鳥肌がジワリと肘あたりから広がり始める。

ステージの上段背面には正方形が幾重にも重ねられた幾何学模様の壁があった。スクリーンは両サイドに設置されている。

至ってシンプルなステージに見えた。

だが、ドームにそびえ立つ可動式のLEDパネルを携えたセットと違い、これくらいシンプルなステージの方が彼の目指すSHOWに相応しいことも同時に理解した。

ジワリと白く点灯されたペンライトの数が増えて行く。青い照明が照らすホールの中に銀河が拡がっていくようだった。


ところで開演までの間のBGMにおいて、2、3曲に1曲はMichael Jacksonがセレクトされ、嫌が応にも身体が反応した。SLASHのギターが心地よい。彼の洋楽の入り口がBrian McKnightなのだとしたら、物心ついた時にはすでに自宅にあった父所持のthrillerのVHSを観ていた私の入り口は間違いなくMJだ。

Smooth Criminalから一曲挟んだ頃だったろうか、BGMと照明が落とされ、暗闇にペンライトの青味がかった白色が無数に浮かぶ。所々赤が見えるのは、図らずも接触不良品だろう。そんな中、ステージ上段背景の壁に映像が投影される。

白い翼をはためかせ、一羽の猛禽類が翔ぶ。白亜の中東様な城に向かって。INTRO ~LIGHT>DARKNESS~をバックにこれまで発表された楽曲達の印象的なワンシーンが白い壁に華美な額で彩られる。ひらりひらりと羽根が舞い、いつしか跳ね舞うダンサーの姿が一人一人浮かび上がる。階段を白のスニーカーが降りていく。足元から舐め上げるようなカメラワークの末に彼の全貌が現れると、それまでの映像で高められた会場のボルテージは最高潮に達していた。


あまりにも神々しい幕開けだ。


ステージ上には左右からバンド、コーラス、そしてダンサー達が持ち場につき、Catch my Lightのイントロが聞こえてくる。アルバムの世界観がここに顕現しようとしている。腰椎から首筋にかけて震えが走った。あの一本筋の通ったアルバムの世界観が、この場で初めてお披露目される。その瞬間に立ち会うために、私は福井まで足を運んだのだと実感したその時、ステージ上部の壁がモーゼの如く左右に割れ、その向こうから彼が現れた。涙が止まらなかった。

鍛え上げられた体を覆う白のタンクトップの上を右身頃がないジャケットが半身を柔らかに包み、シルバーが織り込まれたかのように鈍色に光るガンホルダーのようなベストが肩甲骨から肩、胸筋のなだらかなラインを強調する。ジャケットは右腰と背面の腰位置で紐が結ばれ、ベストとの隙間が細い腰を際立たせていた。

ステージと同じく白を基調とした衣装は文字通り彼の為に誂えられた物で、彼以上に似合う人はこの世にはいないように思えた。

拍子に合わせ揺れ踊り、そして少し掠れたような声が響く。表情が如実に緊張を伝えて来るようだった。あぁ、彼はこういう時誰よりもナイーブになる人だったな、改めてそう感じた。

アルバムに倣い進む中、マイクを預け、男性ダンサーと共に踊る場面がある。私は未だ嘗て、あれほど踊る彼を見たことがなかった。ポテンシャルは勿論あるが、この日までどれほどの時間を割いたのだろう、また涙が溢れた。

少し笑顔が見えたのはAngelだったか。一年程前から我々が親しんだ楽曲は、彼も同じだったのだろう。音程も振りも安定して余裕があるように見えた。

マイクスタンドを用いる演出において、両腕を頭上でクロスさせる振りを入れた方に目録を差し上げたい。右腕の前鋸筋から上腕二頭筋、三頭筋が美しく配置されていた。ゆっくりと腋が拝める機会は貴重である。


衣装チェンジを挟んだ後、シルエットが透ける白いシャツのみを羽織り戻った彼は少しアンニュイな雰囲気を纏っていた。

アレンジが加えられたCan't Take My Eyes Off Youと、ONE DAYに華を添えるコーラス陣のスキルに脱帽しつつ、少し上がり切らなかったがJ-WAVEよりも確実に伸びた声に友人と目を見合わせた。高音の安定感が増せば、SHININGも今後期待できるだろうか。


花道の先端に椅子と楽器が配置される。少し近くで見えた彼はまだ、少し硬い表情だったように思えた。

光の輪が降り注ぐ中、Cracks of My Broken HeartとBetween the Sheetsをしっとりと歌い上げる。伏し目がちな目が閉じられ、眉間に皺を寄せながら紡がれた歌詞はどんな解釈で音に載せられたのだろう。ゆったりと心地よいサウンドに身体を預ける。目を閉じて彼の声を聴く至福の時間だった。


曲が終わり、バンドとコーラスが捌ける。照明が変わる。

丸いステージに一人で立つ彼に当てられる白のピンスポット。会場全体はターコイズブルーの海のように染められていた。そして聞こえたイントロに堪えきれず口を抑えた。原点とも言えるこの名曲があったからこそ、彼は唯一無二の相方と最高で最強な彼らに出会い、この場にいる。感情が抑えきれなかった。

一人で歌い、ご本人と相方と飛天の間で歌い、今再びこの曲をどんな思いで歌うのか、どんな違いを感じたか、各プレスの皆さんは機会があれば是非聞いてみてほしい。


歌い終えた後、暫し中空を見上げる姿が印象的だった。その後一人背を向け花道を歩いた先に待つのはピアノだ。

腰掛け軽く鍵盤を鳴らす。観客が固唾を飲んで静かに見守る。今思えば、他の現場だと静かな間こそ観客の声が聞こえたりするものだがそれがなかった。皆が皆、彼の初日を目に焼き付けていたのだろうか。だがあまりにも静かだったからか、鍵盤に指を滑らせながら「皆さん、楽しんでますか?」とはにかみつつ聞くあたりが彼らしい。存分に、十分に、楽しんでますよ。歓声とライトの光が応える。

先程の二曲と、始まりの歌について話し、そして、「今からやる曲は、アルバムにも入ってない新曲なんですけど、当たり前か」一人完結させるところも相変わらずだなと思うが、新曲というワードに会場が騒つく中、すでに12日終演後公開された「夜明け前」が弾き語られた。

一部すでにSNSで公開されているのでここでいうまでも無いが、ジワリと染み入るようななんとも優しい音色と歌詞だった。

人生は当然ながら山も谷もある。だがその人生の中で谷がきた時、人生と人生が交差して出会った傍にいる誰かが手を差し伸べたり支えたりして、人生は永く続くのだろうと思う。自分もそうして誰かに手を差し伸べられているだろうか、ふとそんな事を思った。


暗転し、また映像がスクリーンに映る。察しの良い観客はペンライトを赤に変え始め、会場が瞬く間に紅く染まる。白に墨が染みるように先程まで白かった鷹の羽が黒く染まる。よく見ると鷹は数を変え7羽になっていた。白亜の城が黒く色を変え、彼の姿もまた変わっていた。裾の長いローブのフードから覗く瞳が色を変え、黒と赤の対比が残像として網膜に焼き付けられる。スクリーンでは凄惨さを感じさせるように口角が持ち上がり、ステージでは黒く蠢く7つの影が松明に照らされる。始まるのはAlter Egoだ。


一言で表すとすればまるでサバトだ。

先程までの軽やかな白の衣装とは異なり、重たく陰鬱とした雰囲気すら感じさせる黒のローブはゴシックな赤の刺繍で彩られ、胸元には太いゴールドのチェーンと上半身の半分はあろうかというほど大きなロザリオが松明の灯りを受け輝いていた。

マイクを持たず深く被られたフードの下、インカムで歌う。また彼の新しい姿を目に焼き付ける。スクリーンに抜かれたローアングルからの画が印象的だった。

曲が終わりローブを脱ぐ。2日目はネックレスを左のVivianが、ローブを右のNadiaが恭しく受け取り、Vivianがキャップを両手で差し出す様が儀式のようだった。

ローブの下、グリーンの光を反射する光沢のあるジャケットとパンツを纏い、続け様にOut of the Darknessを歌い踊る。インカムで歌いながら踊る姿もまた、今回のツアーで期待していた姿だった。アッパーな楽曲だが、初見は驚きとハラハラでほぼ記憶がない。

だがこの後の方が記憶容量を上回る情報過多で死ぬことをまだこの時は知る由もなかった。


低音が響く中聞こえる息遣いにこちらの息もし辛くなるような感覚に陥る。脱ぎ捨てられるジャケットの下、黒のタンクトップがぴたりと覆う身体を惜しげもなく晒し花道を歩く。

先端に到達したタイミングのPlease don’t kill my vibe!!と声を上げながら破り捨てられたタンクトップ同様、このタイミングでどれだけの人間の脳が爆散させられたろうか。これまでの一連の流れから一線を画すような荒々しさがうねりを伴って会場を覆っていく。縦ノリと言っていたがそんな甘いものではない、もはやヘドバンどころか折りたたみだ。折りたたむと彼が見えないのでやらなかったが。

重心を低くとった体勢で振られる頭部が余りに小さい。撒き散らされる水になって蒸発したい。思い返しても気が狂いそうになるほどの衝撃ゆえ、形容のために浮かぶ言葉も気が狂っていることは容赦願いたい。

2日目は引きちぎりきれなかったタンクトップがじわじわ落ちていき、振りの途中足元から脱ぎ捨てられていたことも記録として残しておく。

以降の記事ではタンクトップの行く末だけでも記録を残そうか。

幕切れも印象的だ。わかっていても悲鳴が上がる事は致し方ない。


曲間を感じる間も無く、ダンサー陣の紹介が始まる。個人的に今回のダンサー陣はあまりにもアツい。クリスマスイブまで楽しみである。

パフォーマンスによってあたためられた会場のボルテージは、ゴールドと黒を基調としたジャケットを纏った彼による畳み掛けるようなヒットソングメドレーによってさらに高められて行く。

会場全体が当然のように踊り、声を上げる。

彼の表情も明るく楽しそうで、ここでようやく我々の緊張も解けたような気がした。

「やっぱ三代目はすごいっすね」にこやかに彼が言う。彼のファンなので彼が居てこそと思うわけだが、彼が最強だと言う彼らのパワーを感じずにはいられない。2組のご夫婦に挟まれて居た我々だが、いずれの旦那さんも共に踊って居た。視界の隅でヒョウ柄の座布団を敷いた椅子に座ったご高齢の女性が手を振っている。老若男女問わず虜にする魅力が溢れるステージだった。


終わりが近づいていることもわかっていたが、まだまだこの余韻に浸っていたい。嘆く会場に「そういう段取りなんで」と一刀両断する辺りは一人だからだろう。普段だともう少しやんわりとメンバーが…と思い返して最近そんなMCもなかったなと思い至る。

嘆きを笑顔にした後、最後に披露された楽曲もまた今の彼を形成する欠片の一つだった。せっかく笑顔にしてくれたのにまた泣いてしまうなぁ、汗を拭ったタオルで目頭を押さえた。


「ありがとうございました」「また会いましょう」と捌ける。J-WAVEではすぐ「また会えましたね」とアンコールに応えていたなぁ、と思い返しながら、手拍子と自然と起こったウェーブに混ざる。アリーナサイズのウェーブは起こってから自分のところに来るまでが早い。

視界の端ではセットの階段が左右に分かれ、準備が進んでいる。

唐突にスクリーンに映像が映し出される。Interlude ~RILY~が奏でられ、Petの音が響く。今回ホーンセクションは帯同していなかったが、さすがの誠ちゃんである。GLAY担の皆様にはまだしばらくお返しできないことをここで詫びておく。

RILYのIGで更新されてきたモノクロの西海岸様の風景写真の合間にアパレルの作品を身に纏った彼が混じる。ステージはさながらランウェイだ。

「GO Ryuji! GO Ryuji! GO! GO! GO Ryuji!」とコーラスに合わせドラムを奏でる。こんなもんなの?とでも言うように首を傾げながら煽ってくる。永遠にできるからもう暫く遊ばせてくれ。

ドラムスティックを放ってから聞こえるsaxの音色に自然と体が動く。アンコールというより、ここからまたライブが始まるかのような盛り上がりだった。だが無情にも時間は止まってくれることはなく、最後の曲が始まる。

彼はこの曲を自分の真ん中にいつもある曲として、歌い続けていきたいと言う。願わくは彼の子孫がこの曲を歌い継ぎ、100年続く曲になって欲しいと思う。素直な日本語で綴られた歌詞はいつの時代もシンガーの根幹に響くものだろうから。

曲が終わる。明るい照明に照らされた柔らかな白のステージの上、客席を見渡して一息ついた彼の緊張を改めて伺い知った。


ツアー初日と二日目を終え、改めて彼が歌っていてくれてよかったと思った。

彼がいなければ、私はVBA2も見ずに三代目の現場に足を運ぶことはなかっただろう。

ここまで長ったらしく書いておいてなんだが、筆者は二代目がこの界隈への入り口である。三代目には嫉妬と呼べる類の感情を抱いたこともある。正直に言うがデビュー間もない頃帯同した全体ツアーの京セラで「こんなもんなのか」と思ったこともある。

だが彼だけは、彼の声の伸びやかさは8年目を迎えても不調期は確かにあれど変わらず、今もこうして歌ってくれている。ここから彼の旅路が始まる。その出発地点に立ち会えたことに感謝し、この先に続くマイルストーンの所々で出会えることも楽しみである。そして願わくはこの旅が終わっても、存分に休息したのちで構わないから、また旅を続けて欲しいと願わずにいられない。


思い立って書き始めたはいいものの、随分と時間がかかってしまった。

我々の旅も始まったわけだが、始まりからそれなりのアクシデントに遭遇しているのでなんとか年末まで生きたいと思う。